「何か質問はありますか?」
歯科医院で、こう聞かれたことがあると思います。
その瞬間、頭の中ではいろいろ考えていたのに、口から出てきたのは、
「特にありません」
という一言。
診察室を出てから、
「さっきの説明、もう少し聞けばよかった」
と思ったことはないでしょうか。
私は歯科医師として長く診療してきましたが、患者さんが質問しないからといって、「何も知りたいことがない」とは思っていません。
むしろ逆です。
聞きたいことはある。
でも、何を聞けばいいのか分からない。
こんなことを聞いたら失礼ではないかと思う。
先生が忙しそうで、話を止めてはいけない気がする。
そういう気持ちがあるのではないでしょうか。
歯科医師にとって当たり前のことが、患者さんには当たり前ではない
歯科医師は毎日、歯や歯ぐきの状態を見ています。
歯周ポケットを測る。
レントゲンを見る。
歯の動きを確認する。
プラークの付き方を見る。
私たちにとっては日常の診療です。
しかし、患者さんにとっては違います。
「歯周ポケットが深いと言われたけれど、それは自分の歯に何が起きているということなのか」
「歯石を取ったけれど、これで歯周病は治ったのか」
「この歯は今後も残せるのか」
分からないのは当然です。
だからこそ、分からないことを質問していいのです。
私が患者さんに聞いてほしいと思うこと
難しい質問をする必要はありません。
例えば、
「今、私の口の中で一番問題になっているところはどこですか?」
「この治療は何のためにするのですか?」
「治療しなかったら、どうなりますか?」
「家では何を一番気をつければいいですか?」
「この歯を残すためには、何をすればいいですか?」
こうした質問で十分です。
特に最後の、
という質問は、私は大切だと思っています。
歯科治療を「今ある問題を治すこと」だけで終わらせないためです。
歯を残すことは、治療室だけで決まらない
歯を削った。
詰め物をした。
歯石を取った。
それで終わりではありません。
その後の毎日の歯磨き、歯間清掃、食生活、そして定期的な確認。
そうした積み重ねが、その後の口の状態に関係してきます。
日本歯科医師会も、定期的な歯科健診では、むし歯や歯ぐきの状態だけでなく、ブラッシングやフロス、歯間ブラシの使い方について相談できると案内しています。
つまり、歯科医院は「悪くなった歯を治してもらう場所」だけではありません。
自分の口の中を知る場所でもあるのです。
「こんなこと聞いていいのかな」は、気にしなくていい
私は患者さんから、
「こんなことを聞いていいんですか?」
と言われることがあります。
もちろん、聞いていいのです。
むしろ、分からないまま帰ってしまうほうがもったいない。
歯科医師にとっては簡単なことでも、患者さんには一生に一度しか経験しない治療かもしれません。
分からなくて当然です。
説明を聞いて、それでも分からなければ、
「もう一度お願いします」
と言えばいい。
自分の歯のことなのですから。
次に歯医者へ行ったら、一つだけ聞いてみてください
いきなりたくさん質問する必要はありません。
次の受診で、一つだけ聞いてみてください。
「先生、私の口の中で一番気をつけたほうがいいところはどこですか?」
この質問なら、難しくありません。
そして答えを聞いたら、
「家では何をしたらいいですか?」
ともう一つ聞いてみる。
それだけでも、自分の口を見る目が少し変わるかもしれません。
歯を残すために必要なのは、特別なことばかりではありません。
自分の口の状態を知ること。
分からないことを聞くこと。
そして、教えてもらったことを毎日の生活に少しずつ取り入れること。
歯科医師40年。
私は、患者さんが自分の歯について「知ろう」とすることそのものが、予防の第一歩だと思っています。
歯医者さんで質問できなかった人へ。
次は、一つだけ聞いてみてください。
「この歯を残すために、私は何をすればいいですか?」
その一言から始まる予防もあります。


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